恋口の切りかた

はああ、と藤岡はあきれたような溜息を吐いた。

「青いのう、円士郎殿」

「何ィ?」

「鵜呑みにするかの、普通。物事には裏というものがある」

裏?

今語られた内容以外に目的があるということか?


俺の表情を眺めて、仕置家老は笑った。

「言ったはずじゃ。儂は優秀な人間が好きだとな。
意図が知りたくば、そのくらい己で辿り着いてみい」

結局、教える気はねえってことかよ!

いや──それとも、「教えられない」のか?
教えられないような真の意図が、何かあるということだろうか。

「上等だ」

俺は鼻を鳴らして立ち上がった。

「そうさせてもらうぜ」

「円士郎殿」

背を向けた俺に、背中から藤岡の声が言った。

「一つ忠告しておいてやろう。後学のために、などというのんきなことを言っておっては足下をすくわれかねんぞ?」

俺は思わず、座ったままの家老を振り返った。

「どういう意味だ?」

「何かを学んだ時にはもはや先がなかった、などという高くつく教えもあるということじゃ」

「────」

クセモノのじいさんは、頬の皺を深くしてこちらを見ていた。


「ようく肝に銘じておけ、小僧。もっとももはや手遅れかもしれんがな」


不安をかきたてるような無気味なセリフに、清十郎の言葉が重なった。

次は俺──か。


何とも嫌な感じが胸に広がるのを止められないまま、俺は魔窟のようなその場所を後にした。