恋口の切りかた

しばしの沈黙の後、
父上はうははと豪快な笑いを上げ、

「実はこちらも、愚息が朝から見当たらん」

「な、なんと……」

「当人同士がおらんでは、話にならんなァ」


当人同士……って何のことだろう?


「しかしこちらの阿呆と違って、ご息女のことは心配だな。

余左衛門殿にはここで待ってもらって──

平司、留玖、お前たちも町まで探しに行ってこい」


はい、と返事をして客間を後にする時、


「お二人とも凛々しいご子息で。平司殿と、もう一人は──雪丸殿かの?」


などという大河殿の言葉と、
再び盛大に笑う父上の声とが聞こえた。


今日の私は、稽古の途中だったため
袴(はかま)に、後ろで束ねた髪
という男のなりをしたままだ。

道場で女の着物姿ではしまらないから、

父上からは稽古の時にはこの格好をしろと言われていて──


いや、もちろん客間に行く前に着替えようとしたのだけれど

何を考えているのか、
父上が「そのままそのまま」なんて言うものだから


やっぱり勘違いされちゃったよぅ……。


漣太郎もおかしいけれど、

私をポンと養子にしたり──結城晴蔵というお人も相当変わっている。