恋口の切りかた


 【円】

「突然私に話があるとは、何ですかの?」

仕置家老の藤岡左門之介は、登城してきた俺を愛想の良い笑顔で迎えた。


今の俺は、一度屋敷に戻って、裃で正装している。

「は。御家老様方がこのたび、国内の税率を引き上げたと聞きましたので、その意図をお聞きしたく参上つかまつりました」

前に青文の奴にも言ったが、
俺は回りくどい会話も、狐と狸の化かし合いも嫌いだ。

好々爺の前に座った俺は、面倒なやり取りは避けて単刀直入に言った。

「今年は近隣の村は不作だったと聞いております。
このような時期に年貢高を引き上げては、これからの季節、餓死する百姓も出るでしょう。反乱が起きるのでは?」

ほっほ、と藤岡は綺麗に剃った顎をなでて笑った。

「そのようなことを私に言うために、わざわざ参られたのかの?」

白髪の老人は、深い皺の刻まれた口元をニヤッと吊り上げた。

「治める者あっての国ですぞ、円士郎殿。
ならばこの不作の年、円士郎殿はどのような政策をお考えかな?」

「税を上げるのではなく、国の蔵を開放して救済措置をとるべきかと思いますが」

青文の受け売りではあるが、やはりこの場合は当然の対処だろうという気がする。

「模範解答ですな」

藤岡は、どこか小馬鹿にしたような口調でそう言った。

「円士郎殿は民のことを第一に考えておられるご様子。いやいや、ご立派、ご立派」

なんか無性に腹が立つぞ、このジジイ……!

「しかし国が立ちゆかねば、結局は民も困るのですぞ。
ご心配なく。私とて、いたずらに民を苦しめようと税を引き上げるよう命じたわけではありません。

そもそも円士郎殿は──政策に対してこのようにあれこれ口出しできるお立場にはない」

白髪の老人は、皺に埋没した目に凄みのある表情を作った。