恋口の切りかた

すぐに、大好きな人の顔が浮かんで、

同時におひさの言葉も浮かんだ。


──円士郎様が死にかけたのは、あんたのせい。


「いるよ……」

私はまた涙が滲んでくるのを感じながら言った。

「ずっと、私のことを大事にしてくれて……いつもそばにいてくれて……凄く大切な人が、いる」

「そうなんだ。その人のお嫁さんになるの?」

「……それは…………」

私は唇を噛んだ。

「……私には、そんな資格ないから……」

「え?」

妹はキョトンとした。

「…………武士の世界ではね、好きな人のお嫁さんにはなれないの……」

「ふうん、そうなの?」

妹は不思議そうに目を丸くして、


おひさのことと一緒に、私はここに来た目的を思い出した。


「ねえ、おとうたちは!? 年貢が引き上げられたって聞いたけど、おとうたちはどうしてるの!?」

すっかり忘れかかっていた。

「ねえちゃん、心配してくれたの?」

妹は目を伏せた。

「おとうたちは……庄屋様の所に集まって、相談してる」

「相談……!?」

「うん……訴えを起こすかっていう、相談……」

おひさから聞いたのと同じ話に、背筋を冷たいものが走り抜けた。