恋口の切りかた

私の家は、何も変わらずに記憶の中の場所に建っていた。

うららかな昼下がり。
六年前の寒い冬の日、固く閉ざされて開くことのなかった家の戸は大きく開け放たれていた。

恐る恐る中を覗き込んだら、懐かしい土間の匂いがして──必死に忘れようとしてきた家族の思い出が濁流のように押し寄せてきた。


ああ、ここが──


私が産まれた場所。
私が育った場所。
本当なら今もいるはずだった、私の本当の居場所だ──


「お、お侍様!?」

家の入り口に突っ立っていたら、後ろから声がかかった。

「う、うちに何のご用でしょう」

振り向くと、びっくりした顔の女の子が手にした薪を落としていた。

「あ……私は……」

震える唇で何とか言葉を紡ごうとして──

私は目の前の村娘の顔をまじまじと見つめた。


つぎはぎだらけのボロボロの服を着て、日焼けしたほっぺたをして、大きな瞳で怯えたように私を見てくる女の子。


見覚えがある。

幼い頃の面差しが残っている。


「トウ丸ねえちゃん……?」

女の子の口が動いた。

「ねえちゃんなの……?」

そこにいるのは、すっかり大きくなった私の一つ下の妹だった。