恋口の切りかた


 【剣】

子供の足では遠い気がしていた村までの道のりは、
成長した今、こうして歩いてみるとほんの一刻ほどの何でもない距離だった。

それでも私にとっては海の向こうの異国よりも遠く、二度と足を踏み入れることもないと思っていた場所……

今さら戻って、どうしようというのだろう。

そう思ったけれど、おひさから聞かされた話は両足を勝手に動かして
私は再び生まれ故郷の村に立ってしまった。


約六年ぶりに帰ってきたふるさとは、何一つ変わっていなくて

そして何もかもが小さく見えた。


幼い頃は広いと思った広場も、
お稲荷さんの神社も、
あぜ道も、
茅葺きの家々の距離も、
庄屋様のお屋敷への道も──


こんなに狭くて小さい場所に私はいたんだ……。


表で遊んでいる知らない小さな子供が、二本差しに袴の私を不思議そうに見上げて

「おさむらいさん」

と、言った。


ふらふらと……吸い寄せられるように私は村の一郭を目指して歩いた。

忘れるはずもない。

この六年間、夢の中で何度も辿った懐かしい家への帰り道──