本来ならば銀治郎の所にも寄る予定だったのだが──
藤岡のジジイの所に行くことになったため、役宅を後にした俺は復帰を遂げた与一の鈴乃森座にだけ顔を出した。
「おや、今日はそんな格好で……芝居見物に来てくれたのかい?」
楽屋に顔を出した俺を、双眸の揃った与一は嬉しそうに出迎えてくれたが、無論そんな暇など俺にはない。
「悪ィ与一。今日は時間がねーんだ、急ぎであんたに聞きたいことがある」
「なんだい、鈴乃森の与一に用があるってワケじゃあなさそうだね」
「ああ、用があるのは鵺の与一だ。狸の与一でもいいけどよ」
俺が言うと、与一は楽屋に俺を上げてくれて、
「聞きたいことってのは?」
と、侠客の目つきになって言った。
「あんた、鎖鎌の兵衛って男を知ってるか?」
侠客は、自前の左目と義眼の右目とを丸くした。
「知ってるも何も、そいつ──裏の世界じゃ名の知れた殺し屋じゃないかえ。闇鴉の一味にいた時に、何度か『お務め』で手を貸してもらったよ」
「成る程。闇鴉の一味は殺し屋とも平気でつるむ賊ってことだな」
「好んでつるむのは、いそぎ働きをする一派だけどね」
「行逢神の平八みてえな、か?」
「おや。よくご存じじゃないか」
「既に城下に入り込んでやがるぞ、平八も、兵衛もだ」
「何だって!?」
与一の顔色が変わった。
藤岡のジジイの所に行くことになったため、役宅を後にした俺は復帰を遂げた与一の鈴乃森座にだけ顔を出した。
「おや、今日はそんな格好で……芝居見物に来てくれたのかい?」
楽屋に顔を出した俺を、双眸の揃った与一は嬉しそうに出迎えてくれたが、無論そんな暇など俺にはない。
「悪ィ与一。今日は時間がねーんだ、急ぎであんたに聞きたいことがある」
「なんだい、鈴乃森の与一に用があるってワケじゃあなさそうだね」
「ああ、用があるのは鵺の与一だ。狸の与一でもいいけどよ」
俺が言うと、与一は楽屋に俺を上げてくれて、
「聞きたいことってのは?」
と、侠客の目つきになって言った。
「あんた、鎖鎌の兵衛って男を知ってるか?」
侠客は、自前の左目と義眼の右目とを丸くした。
「知ってるも何も、そいつ──裏の世界じゃ名の知れた殺し屋じゃないかえ。闇鴉の一味にいた時に、何度か『お務め』で手を貸してもらったよ」
「成る程。闇鴉の一味は殺し屋とも平気でつるむ賊ってことだな」
「好んでつるむのは、いそぎ働きをする一派だけどね」
「行逢神の平八みてえな、か?」
「おや。よくご存じじゃないか」
「既に城下に入り込んでやがるぞ、平八も、兵衛もだ」
「何だって!?」
与一の顔色が変わった。



