恋口の切りかた

「そう言えばよ、闇鴉の一味が城下に入り込んでるって話したと思うが……隼人、あんたのほうは大丈夫なのかよ? 襲われたりしてねーのか?」

俺が思い出して隼人に尋ねると、隼人は「いや、今のところは何も」と答えた。

「ふーん。直接一味を殺してる隼人を放っておいて、城代家老を襲うとか……連中も何考えてんのかイマイチわかんねえよなァ」

俺は首を捻った。

「他に何か変わったこととかもねえのか?」

「うーん……変わったことっつってもなァ……最近屋敷に、見かけない薬売りが出入りするようになったことくらいかな」

「薬売り?」

俺と青文、帯刀は顔を見合わせた。

「それが凄い美人の薬売りらしくてよ、俺は見たことねーんだけど、奉公人たちが騒いでて知った」

「美人の……? 富山の薬売り(*)か?」

「って聞いたな。どんな女なのかちょっと気になってたとこなんだけど」

隼人はへらへらと笑いながらそう言って、

「オイ、それって……!」

俺たちは思わず声を上げた。

「ううむ、あまりにもベタベタな手口ではあるが……」

「盗賊の引き込み役なんじゃねーのかァ!?」

「えっ……?」

隼人は青くなった。

「説明しただろうが! 盗賊の仕事の中で、そういう役目をする者は行商や奉公人になりすまして押し込み先に潜り込むと!
その女、あからさまに怪しいぞ……!」

帯刀が目くじらを立てて怒鳴って、


とりあえず、見かけない富山の薬売りの女──美女か?──には要注意ということだな、と俺は頭に叩き込んだ。



(*富山の薬売り:時代劇などによく登場する売薬行商。越中富山で発展し、漁村の女性の出稼ぎとしても有名で、全国各地の家々を回って歩いた)