恋口の切りかた

「わかった。俺もいたずらに民を苦しめる政策には賛同できねえ。
どういうつもりか藤岡のジジイに聞いてみるぜ」

俺がそう言うと、青文は吹き出した。

「民を苦しませる、ときたか。
おい、エンシロウサマ。あんたいつからそんな歯の浮くようなセリフを言うようになったんだ? ご自分だけ面白く生きていればいいというお考えかと思っていたがな」

俺は少し鼻白む。

「何だよ、俺だってこの国のことくらい考えて……」

「あんたの考えてる『この国のこと』ってのは、ご自分が面白おかしく暮らすだけの世界だろうが」

俺が口にしたセリフの何が気に食わなかったのか、青文はいつになく辛辣な言葉を放ってきた。

「当然だ。人間の世界ってのは自分の目で見て、耳で聞いた範囲だ。

民のため? 国のため? 一度たりとも民や国のために責任を負う立場になったことのねえボンボンが笑わせる。

そりゃ、学問で学んだ綺麗事か? それとも銀治郎たちのように、強きをくじいて弱きを助く任侠道でも気取るつもりか? 親分たちと違って、弱き者の本当の声を知らぬあんたには任侠道も語る資格はあるめェよ」

あまりに皮肉げな響きに、横で聞いていた隼人が首を引っ込めた。

「民のことも国のことも、エンシロウサマ、あんたより藤岡殿のほうがよっぽど考えてるし理解してる。
あんたがそんなものを大義に掲げて乗り込んでも軽くあしらわれるだけだ」

「おいおい、いくらなんでも先法家の御子息にご無礼がすぎるんじゃ……」

隼人が、押し黙っている俺の顔色を窺いながらぼやいた。

青文は全く意に介さず、緑色の目玉で俺を見据えた。

「いいか、あんたは己が理解してもいねェことを大義に掲げる薄っぺらい人間にはなるな」

そう言って、青文は緑の双眸を隼人に向けて、

「この人がただの愚か者のお坊ちゃんだったら、俺もこんなことは言わねえよ」

と笑った。