恋口の切りかた

「お茶のお代わりはいかがですか?」

「いやいや結構。まだ残ってるし」

今日と同じような格好で役宅に出入りしていたら、塩入りのお茶を出されて酷い目に遭ったことはまだ記憶に新しい。

ちなみにその日の夜、帯刀に出された酒は水だったらしい。

なんだこれはと文句を言う帯刀に、美影はにこにこと微笑みながら「あら、酔えませんか? おかしいですねえ」と言って酌を続け──帯刀はその水を最後まで飲まされたのだそうだ。


──怖ェよ。


初め会った時は、どこが恐妻家なんだ、愛想の良い優しそうな妻じゃねーかと思ったが……。

「今後はそのような格好で出入りするのはお控えくださいませね」

「おう」

「まあ、お返事だけはよろしいですこと」

「……それで、俺の知り合いが来てるって、誰だ?」

俺は残り少ない茶をすすりながら、慌てて話を変えた。


鬼之介だろうか。ここに直接来るなんて珍しいなと思っていると──


「よう、大の男が三人ツラつき合わせて何の相談だ?」

そう言いながら座敷に顔を出した金髪の棒手振男に、俺たち三人はそろって茶を吹いた。

「な──青文!? てめ……蟄居中の身で、いったい何して……!?」

むせ返りつつ口にした俺の言葉を、

「今は遊水だ」

そう正して、町人姿の御家老は座敷に座った。