恋口の切りかた

「それで……帯刀、あの鎖鎌の兵衛ってやつの捜査はどうなってる?」

本題を思い出して、俺は言った。

「清十郎の奴が握ってる緋鮒の仙太の情報源ってこいつだろ? 盗賊改め方で何とか捕まえちまえば……」

「口封じに斬り殺すか? 捕まえて、他の者の前でべらべらと御家老のことを暴露されたら目も当てられんぞ」

「うぐ……」

「それに当然、鎖鎌の兵衛も情報を提供する見返りとして、匿うか、この国の外に逃がすか……身の安全を確保するような取引を海野清十郎に持ちかけてるはずなんじゃねー?」

「…………」

帯刀と隼人の両方から口々に言われて、俺は口をつぐんだ。

「……つまり、こっちで打つ手はねえってことかよ」

俺の呟きで、重たい沈黙が落ちて

しばし三人で黙って茶をすすり──


「円士郎様のお知り合いだという方が参られました」

座敷に顔を出してそう言ったのは、帯刀の奥方だった。

美影という名の楚々とした印象の女は、俺の格好を見るなりにこやかな笑顔を帯刀に向けた。

「帯刀殿、結城家の若様にはこのような格好で役宅内に出入りせぬように、ようくお頼みしてくださいと申したはずですが?」

にこにこと微笑みながら可憐な声がそう告げた途端、帯刀の顔が強ばった。

「み、美影……それはこの俺もよく伝えておいたのだがな……こやつが……」

「あら、言い訳ですか? 情けないこと。
他の与力や同心の皆様に示しがつかぬからと、あれだけ申しておいたのに」

あくまでにこにこと笑みを絶やさない女の態度は一見柔和そうだが、無言の圧力を感じて俺と隼人も顔を見合わせる。

「円士郎様」

「おう」

女の笑顔がこちらを向いて、俺も顔が引きつった。