恋口の切りかた

「ハメられた……か。そうなんだけどな、過去に盗賊だったのは事実だし、本人が『甘んじて受け入れる』とか言ってる分タチが悪ィ」

俺は苛つきながら溜息を吐いて、

「そのご覚悟があったということだ、致し方あるまい」

帯刀は眉間に皺を刻んで腕組みをしたまま、したり顔で頷いた。


冗談じゃねえ……!


俺は歯噛みして、

「そう言えばよ、過去にあった改易騒動って、どういう事件だったんだ?」

ふと思いついて、年長者の二人に尋ねてみた。

「改易から国を救ったって……具体的に、あいつがやったことって何だ?」

「知らんのか?」

帯刀が目を剥いた。

「いや、ざっとは知ってるけど、よくわかんねーところがあってな。
ホラ、十年前って俺まだほんのガキだったし……親父に聞いても詳しく教えてくれなかったしよ」

「そんなの、御家老様本人に聞けばいいんじゃねーの?」

隼人が苦笑して、

「十年前、先代の殿が江戸で他家の家臣に斬りつけられ、命を落とすという事件があった」

と、帯刀が口を開いた。


まあ、それは俺も知っている。

母上の兄の末路だよな。


「殿には男のお子がなく、この国には公方様(*)に認められたお世継ぎとなる御方がいなかったのだ。
加えて、先代は背中から斬りつけられていた。武士の後傷は不名誉。お家取り潰しは免れないだろうという事態だったが……

そこを、伊羽殿が殿の死を伏せ、目撃者に手を回して傷も正面のものだったと偽り、
生きているということにして、末期の養子として先法御三家の一つである真木瀬家の御子息を立てたのだと聞く」



(*公方:幕府の将軍のこと)