恋口の切りかた


 【円】

青文か失脚したことで、殿様が不在中の全権は仕置家老の藤岡が掌握した。

なるほど、あの狸ジジイめ、清十郎に味方するわけだ。


雨宮の事件の時といい、棚からぼた餅の恩恵にうまくありついてついにここまで上り詰めた、というところだろうか。




「貴様、その格好は何だ!?」

派手な着流しに女物の羽織姿で役宅を訪れた俺を見て、帯刀は渋い顔をした。

「うるせーな。今日は帰りに与一と銀治郎のところに寄る予定なんだよ。
芝居小屋やヤクザの貸元んところに二本差しで行けるかよ」

「二本差しで行け! 貴様は頭がおかしいのか! 役宅にそんな格好で来るほうが百倍非常識だろうが!
というかそんな極道者のような真似をまだ繰り返しているのか……! 貴様、役目についているという自覚はあるのか! そもそもそういう場所に出入りするのをやめろ!」

ガミガミと口喧しく言ってくる帯刀を無視して、俺はとっとと中に上がって、

奥の座敷では嫌そうな顔をした隼人が待っていた。

「海野清十郎が、見習いから正式に家老になったらしいな」

「ああ」

俺は不機嫌に頷く。

「何しろ家老が一人抜けたからな」

忌々しい気分で吐き捨てながら、どっかと腰を下ろして、

「若すぎだろ」

隼人が納得のゆかない様子で文句を言った。

「あいつまだ二十歳だって言うじゃねーかよ。いくら他国の殿様の四男だからって……」

「青文の奴も二十歳で執政の座に着いた」

「それは、改易の危機を救った功績があるからだろ? 海野清十郎には大した功績もねーのに……他の家老はどういうつもりなんだ?」

「全員清十郎とグルだった」

うげえ、と言って隼人は盛大に顔をしかめた。

「じゃあ、なに? 円士郎様のオトモダチは見事にハメられて失脚したってことか?」