恋口の切りかた

私はおひさの後を追うのも忘れて、震えながらその場に立ち尽くしていた。


そんな──


ずっと考えないようにしてきた故郷の父母の顔が浮かんだ。


おとう、おかあ……

いやだ……!


もう過去にしたつもりだった。

優しい母上と父上、円士郎たち新しい家族に囲まれて、忘れようと努めてきた。



けれど──



自分の生まれた村が、
父や村人たちが、

反乱を起こして殺されるかもしれない。


そう思ったら、いてもたってもいられなくて──


私は走り出していた。


走りながら、
私の心は未だにあの村からちっとも自由になれていないのだということを噛みしめた。