恋口の切りかた

これまで何も知らなかったことを突然聞かされて、私は混乱した。

同時に疑問が頭をもたげた。

どうしておひさは、私も知らなかったこんな事情に通じているのだろう。

「私が頼んだのよ」

「えっ?」


おひさの口からは、驚くべき言葉が飛び出した。


「清十郎様に、あの村の年貢高を引き上げて──反乱が起きるようにしてくださいって、頼んだの」


私は絶句した。


清十郎様?

清十郎様って、あの……家老見習いの海野清十郎のこと?


どうして──おひさが、清十郎に……


ううん、それよりも……


反乱!?

その言葉に、私は頭から冷たい水を被った気分になった。


「取り決めを破って理不尽に年貢を吊り上げたことに怒って、あんたの村も近隣の村と土寇蜂起(*)の相談中みたいよ」

「土寇蜂起……」


私はがくがくと震えた。


「知ってるよねえ、おつるぎ様。反乱なんて起こした百姓がどうなるか……?
いい気味! あの村の奴ら、連座でみぃ~んな磔(はりつけ)にでも獄門首にでもなっちゃえばいいのよ」

おひさは楽しそうにそう言って、

「こんなところにいていいの? おつるぎ様」

となぶるような視線をたっぷり私に注いでから、人混みの中に消えた。



(*土寇:歴史の授業で習う「土寇」のこと。江戸時代に禁じられていた百姓一揆を貶めて言う言葉)