恋口の切りかた

「どういうこと?」

私はおひさが何を言い出したのかわからなくて、ただただ別人のようなおひさを見つめることしかできなかった。

「私、おひさちゃんに何か嫌なこと、した?」

おひさはふん、と鼻で笑った。

「あんた、元は農民の分際でいい気なものよね。結城家みたいな家のお嬢さんに納まって、チヤホヤされて」

おひさが自分に向けてくる瞳の中に潜む感情に気づいて、背筋が凍る。

恨み。
憎悪。

私が向けられているのは、間違いなくそういう類の感情だった。

「村を追い出されて、そのままのたれ死ねば良かったのに。
御曹司を誑(たぶら)かして名家に取り入って、とんでもない女狐だわ、あんた」

生まれて初めて叩きつけられた暗い負の感情に、体が小刻みに震えた。


なんで……?

どうして私、おひさちゃんにこんなこと言われなくちゃいけないの……?


「同じ身寄りのない境遇で引き取られたあたしはただの女中。片やあんたは名家のお嬢様。百姓の娘が、調子に乗りすぎてるんじゃないの?

周囲に言いふらしちゃおっかなあ。おつるぎ様は結城家に拾ってもらった恩も忘れて、いやしくも義理の兄上に思いを寄せていますって。

あは、こんな噂が立ったら、結城家を追い出されるかしら?」

「やめて! やめてよっ!」

そんなことされたら、私だけじゃなくて、エンにも迷惑がかかっちゃう……!

私は泣きそうになった。

「それが……理由なの?」

私が、農民の出なのにいい思いをしてたから……?

「私のことが許せなくて、風佳にエンを殺させようとしたの?」

「あんたのことが許せなくて? あはは、そうよ!」

おひさは鬼か魔物のような恐ろしい口調で言った。

「愛しい円士郎様が死ぬか、再起不能な体になるか……それを見て苦しむあんたの姿を楽しみに待ってたのに! 本当に残念」

「何それっ!」

私は涙をこらえながら、おひさを睨んだ。