「エンは、稽古しに来たんじゃないの……?」

私は稽古着を着ていない円士郎を見つめた。

「お城で、何かあった……?」

円士郎は廊下の柱に背を預けて、薄灰色に曇った空に視線を投げた。

「どうしたの……?」

不安になる私の前で、


円士郎は衝撃的なセリフを口にした。



「青文が、執政の座を追われた」



「そんな……」

私はぼう然となった。

「海野清十郎がやりやがった。
悪い留玖。せっかくお前が知らせてくれたのに──何もできなかった」

円士郎は苦しそうな目で私を見て、

「エン……」

私は円士郎の着物の袖を握った。

円士郎は周囲を気にしながら私の頭をそっとなでて、ふん、と鼻を鳴らした。

「あの野郎、次は俺に何か仕掛けてくる気らしいぜ」

私はあの冷たい瞳を思い出してぞっとした。

「なにそれ……! やだ!」

私は円士郎にしがみついた。

円士郎の腕が背中に回って、ぎゅっと抱き締めてくれて、

「留玖、駄目だ……人に見られる」

円士郎はすぐに私の体を引き離した。

それから「心配すんな」と私に微笑んでくれて、

「あんな奴に俺はどうこうされたりしねえよ」

そう言って、円士郎は不敵に笑ったけれど──


エンの身に何かあったら──

そう思ったら、私は不安で不安でたまらなかった。