【剣】

道場から出ると、渡り廊下に円士郎が立っていて、

「エン、おかえりなさい」

私は、途端にうるさく鳴り始めた胸を押さえて駆け寄った。

今日は急にお城に呼ばれたと言っていたけれど、何の用だったのかな、と思いながら、

「あのね、今、雪丸も道場に来てて……凄いんだよ」

私は円士郎にこの興奮を伝えようとした。

「雪丸、剣の才能がある。さすが、エンの弟だよ」

これまであまり気にしたことがなくて知らなかった。

性格は全く違うけれど、小さな義理の弟は、まるで幼い頃の漣太郎を見ているような太刀筋の剣を振るう。

「へえ」

円士郎は格好良く笑って、私はどきどきしてちょっと下を向いて、

「でも、あいつ──前に俺たちの話聞いて泣きかかってたじゃねーか。医者になりたいんだろ。
剣術は嫌いなんじゃねえのか?」

「そんなことはございませんっ」

可愛い声がして振り返ると、木刀を手にした雪丸が道場の入り口から顔を出していて、こちらに向かって歩いてきた。

「虹庵先生も剣術と医術をどちらとも修めてらっしゃいます! 私も姉上や兄上のような強い剣客になりたいです」

「調子いいな、てめェ」

円士郎は雪丸の頭を小突いて苦笑した。

私はほっぺたが熱くなるのを感じながら、その顔をぽーっと見上げていた。


苦笑した顔も……全部かっこいい……。


「さては留玖に才があるとか言われて舞い上がってやがるな?」

へへへー、と雪丸は照れたように笑って、

「兄上も、お相手してください!」

と円士郎にきらきらした目を向けた。

「ああ……また今度な」

部屋着姿の円士郎は微笑んで雪丸の頭をぽんぽんと叩いて、雪丸は「約束ですよ!」と言って道場に戻っていった。

「おう」

その背中を見送る円士郎の表情がかげりを帯びていることに気づいた。