恋口の切りかた

結城家の屋敷は広い。



村にいた頃には、武家のお屋敷なんて言っても
たいていはこぢんまりとしたもので

村の立派な農家のほうがよっぽど大きなもんだと聞かされていたのだけれど……



とんでもなかった。



村の自分の家なんていくつ入るのだろうという敷地に、

池のある大きな庭、
立派な門、
建物は離れや道場など……

屋敷の部屋数なんて二十はあるんじゃないだろうか。



もともと結城家は
戦国のころから剣術指南役として殿様の家に仕えた名家で、

何代か前の殿様と結城家のご先祖様は
兄弟分の契りを交わしていたのだそうだ。


今もこの国元では御三家と呼ばれる特別な家柄の一つなのだとか。


とは言え、ここまで立派な屋敷になったのは
先々代──つまり父上のおじい様──漣太郎や平司の曾おじい様の代かららしい。


曾おじい様は剣の腕もさることながら、
政治的手腕に卓越した方だったそうで

殿様とも懇意(こんい)にあって、
次の代の幼い若殿様の補佐役として守役(もりやく)を兼務した。


さらに、今の当主晴蔵様もまた──

若くして家督(かとく)を継いですぐに、
先々代の殿様に気に入られ、
ご息女である奈津姫様と婚姻を結んだ。


──それが、漣太郎の母上の奈津様だ。