恋口の切りかた

俺はニヤリ、と笑った。



「それにオレはおまえが女でちょっと得したし」

「へ……?」



「今抱きつかれて気がついたけど――

お前って胸あったんだな。
ちっちぇーけど」



かああ――っと、留玖が頬を紅(あか)く染め、


お~かわいいなとか俺が思っていたところで、




ガン! と後ろからゲンコツを食らわされた。



「朝っぱらから妹に何をやってんだ、この助平ガキが!」

振り返ると、あきれ顔の親父殿と、笑っている虹庵が立っていた。


「まあまあ、兄上。漣太郎から妹や弟を思いやる言葉が聞けたこと、私は嬉しく思いますよ」

「途中までは立派だが、最後がいかん、最後が!」


苦笑する虹庵と、ため息をつく親父殿に

「うるせえな」などと俺が返していると、

留玖はくすりと、ようやく笑顔を見せた。



その笑顔をながめながら、

俺はその時――




こいつの笑顔は何があっても俺が守ってやろうと




そう心に誓った。




それが、兄だから妹を守りたいと

そう思う意識から来るものなのか


この時の俺は深くは考えなかったが――



平司や雪丸のことを守ってやりたいという気持ちとはまた

少し違うような気もした。