円士郎の調子は四、五日もするとすっかり良くなって、

毎日のように部屋から悲鳴が聞こえていた正体術の効果があったのか、腕もすぐに元通り使えるようになった。


円士郎の体調が完全に回復するのを待って屋敷を訪れた大河様と風佳は、父上と円士郎の前で平伏してただただ謝罪を繰り返していた。

「どうか顔を上げてくだされ、大河殿」と言う父上に対して、

「もはや合わせる顔などありませぬ」

大河様はそう言って頭を下げ続けた。

父上は嘆息して、

円士郎と風佳の縁談をなかったことにする、それのみで、今回のことは公にせず、風佳にも何の咎めもなく済ませようとそう言ったのだった。


そうして父上は、風佳には、

「己が為した事の重大さは理解されていような。

今回のことは、毒を服したこの円士郎の行動も武芸の者にあるまじき失態。

風佳殿には事を不問とする代わりに今後、この家の者と言葉を交わすことも会うことも、いっさいの関係を持つことを遠慮されたい」

と、そう淡々と告げた。


その宣告が意味するところは、つまり

風佳と冬馬にもう二度と会うことを許さない

──と、そういうことだった。


風佳は震える声で「はい」と答えて、

「当然の報いです」

と、続きは涙声で言った。


夕暮れの中、
大河殿に連れられて、泣きながら帰っていく風佳の背中を見送って、

私はションボリと肩を落として自分の部屋に向かっていた。


冬馬だけじゃない。

私ももう、風佳と会うことはできないんだと思って、


「留玖」

円士郎の部屋の前を通りかかったら、中から彼が顔を出して手招きした。