恋口の切りかた

「毒のせいじゃ……なかった……?」


ぼう然と繰り返す円士郎に向かって、虹庵は


「そもそも、深い眠りからきちんと目覚めたということは、円士郎が盛られた毒の量は致死量には遙かに及ばない。

後遺症など残るはずがないから、君から腕の話を聞いた時、おかしいと思ったんだよ」


と言った。


「え……? でも風佳は、死なないぎりぎりの量を盛ったんじゃ──」

私もぽけっと虹庵を見つめて、


「いいや。風佳殿は毒の薬包を二つ持っていただろう。

あれを二つとも使われていたら──危険な状態だったのだろうが……彼女は一つしか円士郎に飲ませなかった。

ためらったのか、円士郎の身を案じたのか──その点においてのみは、風佳殿に感謝しなさい」


円士郎が「そう言えば」と声を上げた。


「町で俺に薬を盛った時──風佳は包みを二つ持ってたが、
空になっていた包みは一つで、もう一つは使っていないまま中身が残ってたな……」

彼は記憶を辿るように宙を睨んでそう呟いた。


あ──

私も思い出す。


確かにあの時、おひさは風佳に

「必ず二つとも使うように」という意味合いのことを言いながら、不吉で禍々しい赤い薬包みを渡していた。


でも、風佳は一つしか使わなくて


それが、円士郎の身を救った──?