恋口の切りかた

「さて、円士郎」

お礼を言ってオジサンを見送ってから、虹庵は円士郎に向き直って座って、

よろよろと身を起こした円士郎に、

「首や肩の具合はどうかね? 寝てばかりで痛いと言っていただろう」

と尋ねた。

「そう言えば、痃癖(げんぺき*)みてーな痛みがあったけど、何ともなくなったな」

円士郎は肩と首を動かしてそう言った。

「あ、枕を使うなっていうのもこのためか?」

「そうだ」

虹庵が頷いて、

「では、円士郎に、大人しく正体術を受けた褒美をあげよう」

と言って、何かを懐から出して円士郎に向けて投げた。

ぱしん、と円士郎がそれを指ではさんで受け止めて、


「匙(さじ*)?」

手の中にある細い道具を眺めて眉を寄せた。

「何の洒落だよ、先生。医者が匙を投げた、とかそういうことか?」

そう言う円士郎を見て、虹庵は可笑しそうに笑った。


私は目を見張った。



「手、使えるの? エン」



(*痃癖:肩こり。江戸時代にはまだこの言葉がなく、痃癖と呼ばれていたらしい)

(匙:スプーン。ここでは医師が薬を計るのに用いる薬匙)