恋口の切りかた

「何だァ? そのツラ、どうした」

「以前、風佳殿が自害しようとしたのはお前のせいかと、父上に殴られました」

俺は目を丸くして、隼人と遊水がぎょっとした顔になった。

「女に死を選ばせるような色恋の仕方をするなと」

俺は吹き出した。

「なんだよ、お前もかよ、冬馬」

冬馬が怪訝な顔になる。

「お前も、とは?」

「俺も親父から手痛い一発をもらった」


兄弟そろって──


「俺は殴られたワケじゃなかったけどな」


しかし、クソ真面目な冬馬がまさかそんな理由で親父殿に殴られる日が来るとはな。


のんきにそんなことを考えて、


「おい、このお坊ちゃん──」


隼人が庭から緊張した声を発するのを聞いた俺は、ようやく

遊水や隼人がぎょっとした表情になった理由に気がついた。


顔にばかり目が行ったが──


「冬馬様、そのなりは……?」


遊水が廊下で腰を浮かせて、冬馬に向かって言った。



冬馬は

純白無地の着物を着て、浅黄色(*)の裃(かみしも)を身につけていたのだ。



「なんだそりゃ!? 切腹装束じゃねえかよ」



俺もさすがに仰天して、
床(とこ)に座ったまま目を剥いた。



(*浅黄色:あさぎいろ。浅葱色とも書く。昔の色の名前で、黄色っぽい色ではなくて、セルリアンブルーに近い濃い水色。武士の切腹裃の色であり、幕末に新撰組がこの色の羽織を着用して死への覚悟を示していたことでも有名)