「円士郎殿!」

亜鳥が俺を覗き込んで、脈をとるためか腕を取った。

「心の臓は苦しくないか? 息は? 吐き気はあるか?」

「息も胸も苦しい……吐き気は……さっきあんたの旦那に殴られたせいでわかんねーが……体が火みてーに熱い…」

俺は自分の感じた異変を伝えて、

「吐き出しても、すぐに毒が回り──症状は遅れて現れる……痙攣、手足の硬直、脈が速くて、心の蔵と呼吸にくる……命が助かっても後遺症が残る……これは──」

本草学に詳しい城代家老の奥方はぶつぶつと呟いてから、息を呑んだ。

彼女は人目を気にするように周囲に視線を走らせ声を潜めて、



「おそらく──毒芹だ」



青文や与一、俺にだけ聞こえる声で囁いた。



「な──ドクゼリ?」

与一があんぐりと口を開けた。


「青文殿、今も毒消しは持ち歩いているか?」

亜鳥は小声で青文に尋ねて、

出会った頃から常に毒殺の危険に備えて、町人の姿でも毒消しを持ち歩いていた城代家老は、

「ああ」

と頷いて、懐から例の印籠を取り出し、店の者が運んできた水と一緒に中身の丸薬を俺の口に含ませた。

「気休めにしかならないと思う。とにかく医者に診せないと、私では……」

亜鳥は小刻みに痙攣を繰り返す俺の様子を見て、青い顔でそう言った。

「わかった。俺は虹庵先生に知らせる。与一は円士郎様を結城家の屋敷まで運んでくれ。亜鳥は──そちらのお嬢さんを頼む」

青文は震えながら立ち尽くす風佳を振り返って、

「彼女も結城家の屋敷に連れていってくれ」

と言った。


「承知した」と二人が頷くのがぼんやりと見えた。