恋口の切りかた

「はい! 大事にします」

「うん、雪丸はいい子だもんね。
えへへ、兄上なんか雪丸くらいの頃、いつも着物ぼろぼろにしてたんだから」

「そうなのですか?」

雪丸が俺を見上げて、俺は「まあな」と頷いた。

「姉上は? 姉上は、着物をぼろぼろになんてしていなかったでしょう?」

「私は──」

留玖の語尾が小さく震えた。

「大事に着てたよ……」

その答えを聞いて満足した様子で、雪丸は

「母上のところに行ってきます! 着物を褒めていただいたとお伝えしてきます」

と言って、駆けていった。


静かになった座敷の中には夕闇が降りてきて、障子の外からは秋の虫の声が聞こえ始めていた。

雪丸が去っていった襖の向こうを眺めて立ち尽くしていた留玖が、

「……いいな」

ぽつんとそう言って、黙り込んだ。

畳みに視線を落としたまま、
彼女は今、何を考え込んでいるのだろう。

俺は胸が締めつけられるような気分になった。

「留玖──俺は……」

「……え? なあに、エン?」

留玖がこちらを見上げた。

「俺はお前のそばにいるからな──」

その瞳を見つめ返して告げて、白い頬にそっと触れた。

細い顎に手をかける。


「俺がそばにいるから」


俺はそう繰り返して、愛おしい少女の唇に口づけた。