恋口の切りかた

「わ、悪ィ、雪丸。
しかしだな、人体の急所を正しく理解しておけば、俺の役目で悪者を成敗する時にも、殺さずにうまく捕まえられるだろ。
これは人を救うことにもなるぞ?」

「エンのばかっ! 雪丸、もっと泣きそうになってるじゃない!
もうしない! もうそんな話しないよ!」

口々になだめる俺たちを前に、雪丸はぷいっとそっぽを向いた。

肩をふるふる震わせて──

うお?
口がへの字になって顎に皺が寄ってやがる。
これは盛大に泣き出す寸前っぽいぞ……!

「こ、こら! 雪丸!
てめえも武士の子なら、泣くんじゃねえ! ここで泣いたらぶん殴るぞ」

「わーっ! わーっ! なんてこと言うんだよう、エン!
ゆ、雪丸、その着物よく似合ってるねっ。父上に選んでいただいたのかな?」

「お……おお、そうだな、立派な着物じゃねェか。よく似合ってるぞ、雪丸」

必死に話をはぐらかした俺たちの努力が功を奏したのか、目尻の涙を袖で拭って、雪丸は再び笑顔になった。

「この着物は母上に縫っていただきました」

「え……? おりつ様に?」

留玖が少し目を大きくした。

「おりつ様って着物縫えるの……?」

変なところに驚いている留玖を見て、俺は苦笑した。

そりゃ、あの花魁出身の美貌からは、針仕事をしている姿など想像しづらいかもしれないが……

「おいおい、りつ殿だって武家の側室なんだぜ? 着物くらい縫えるだろ」

「ふうん……」

留玖はそう言ったきり、黙り込んだ。

「いいでしょう」

雪丸がにこっと笑って、

「あ……うん。雪丸の母上様が縫ってくれた着物だもんね」

留玖は優しい声で言って、雪丸の頭を撫でた。

「大事にしなくちゃだめだよ」

微笑んで雪丸を見つめる留玖の姿に、俺ははっとなる。


留玖にとってこの話題が──

母親が縫ってくれた着物の話が──


どれだけつらいものか。