親父殿の側室のりつ殿の子である雪丸は、俺や冬馬とは違って剣術よりも学問に興味があるようで、
将来は虹庵のような医者になりたいと言って、医学の書物を読みたがっていた。
まだ数えで十一のガキのくせに、虹庵から医学書を借りて眺めているこの幼い弟のために、
俺は亜鳥に、何か勉学の助けになるような絵を描いてくれるように頼んだりもしていて、
伊羽家の正妻となった後も、亜鳥は人の体の中身や生き物の体の中身を書いた絵図を描いては届けてくれていた。
普通の子供なら気味悪がりそうな絵図ではあるが、雪丸は熱心に見入って、大層気に入った様子で、
俺も時々、一緒になって医学書や蘭学の書物を見てやったりしていたのだが──
この日の夕方、加那の稽古から戻ってきた留玖が雪丸と一緒に座敷で亜鳥の絵図を眺めているところを見つけて、俺は少し驚いた。
留玖も頭が良くて、
俺や冬馬と一緒に論語や大学、中庸などの四書五経や史記、戦国策、漢書(*)やなんかは学んでいたし、
俺は得意だが冬馬は苦手としている詩文にも才を見せたり、会読(*)にも参加したりしていたものの、
鳥英の長屋の光景が衝撃的だったせいか、これまで医学の類にはあまり手を出したがらなかったようなのに──
「珍しいな」
俺が声をかけると、留玖は顔を赤くして下を向いて
昨晩のことがあって照れてくれているのか? などと、馬鹿な俺はまた気を良くしたりして──
「あ、兄上! 今日は姉上も一緒に人体について学びたいと仰って──」
留玖のことが大好きな雪丸が、嬉しそうに笑顔で答えた。
(*四書五経、史記、戦国策、漢書:どれも江戸時代に武士の教育に用いられた教科書。他に国史略などが有名だが、この時代にはまだ存在していない)
(*会読:これも武士の教育の一つ。ある教典などをもとにして、学ぶ者たちが互いに討論を交わしていくという、より高度な学習形態)
将来は虹庵のような医者になりたいと言って、医学の書物を読みたがっていた。
まだ数えで十一のガキのくせに、虹庵から医学書を借りて眺めているこの幼い弟のために、
俺は亜鳥に、何か勉学の助けになるような絵を描いてくれるように頼んだりもしていて、
伊羽家の正妻となった後も、亜鳥は人の体の中身や生き物の体の中身を書いた絵図を描いては届けてくれていた。
普通の子供なら気味悪がりそうな絵図ではあるが、雪丸は熱心に見入って、大層気に入った様子で、
俺も時々、一緒になって医学書や蘭学の書物を見てやったりしていたのだが──
この日の夕方、加那の稽古から戻ってきた留玖が雪丸と一緒に座敷で亜鳥の絵図を眺めているところを見つけて、俺は少し驚いた。
留玖も頭が良くて、
俺や冬馬と一緒に論語や大学、中庸などの四書五経や史記、戦国策、漢書(*)やなんかは学んでいたし、
俺は得意だが冬馬は苦手としている詩文にも才を見せたり、会読(*)にも参加したりしていたものの、
鳥英の長屋の光景が衝撃的だったせいか、これまで医学の類にはあまり手を出したがらなかったようなのに──
「珍しいな」
俺が声をかけると、留玖は顔を赤くして下を向いて
昨晩のことがあって照れてくれているのか? などと、馬鹿な俺はまた気を良くしたりして──
「あ、兄上! 今日は姉上も一緒に人体について学びたいと仰って──」
留玖のことが大好きな雪丸が、嬉しそうに笑顔で答えた。
(*四書五経、史記、戦国策、漢書:どれも江戸時代に武士の教育に用いられた教科書。他に国史略などが有名だが、この時代にはまだ存在していない)
(*会読:これも武士の教育の一つ。ある教典などをもとにして、学ぶ者たちが互いに討論を交わしていくという、より高度な学習形態)



