恋口の切りかた

次の朝、

私はできるだけ円士郎と二人きりで顔を突き合わせたりしないように気をつけながら、そろそろと庭に面した廊下を歩いて朝餉の席に向かっていた。

だって、どんな顔をして会えばいいのか……


そんなことを考えていたら、


「留玖」


用心も虚しく、背後から聞き慣れた声に呼ばれて私は身を固くした。


振り返ると、庭を横切って円士郎がこちらに歩いてくるところだった。

早朝の一人稽古を終えて井戸で水でも浴びていたのか、
円士郎は上半身裸で、手拭いで首元を拭きながら歩いてきて──

私は真っ赤になって慌てて背中を向けた。


屋敷の女中たちはいつも大騒ぎして文句を言っている円士郎のこんな姿も、私は小さい頃から見慣れていて、普段なら何とも思わないはずなのに……

なのに、

昨日の晩、あんなことがあったから──今朝はなんだか普段と違って見えて、どきどきしてしまって──


「あー!? 留玖、お前なァ!」

近くまでやってきた円士郎は私に向かって不満そうな声を上げて、

「な、なに?」

私がおそるおそる彼のほうを見ると、
屈託のない、いつも通りの円士郎の笑顔があった。

「つけてねーじゃねェかよ、かんざし」