恋口の切りかた

しばらく手の中でじっと木の箱を眺めて、

「エン、これってさ……」

再び私の頭は昔のことを思い出す。

村にいた頃、円士郎がいいものをやると言って、ニタニタ笑いながらちょうど同じような木箱を渡してきたことがあった。

「ここって一応私の部屋の中だからね」

「うん?」

あの時は外だったから良かったものの、箱を開けたら──

「ムカデとかクモとかがうじゃっと出てきたら、本気で怒るよ?」

ムカデもクモも、鳥英の家のように無気味に飾られた死骸でなければ私は平気だけれど、

そばにいた村の子供が大騒ぎして泣いていた夏の日の記憶は今でも鮮明だ。

「ばっ……馬鹿!」

私が疑いの眼差しを向けた先で、薄明かりの中でもわかるくらい円士郎の顔が赤くなった。

「もうガキじゃねーんだ! 俺だってそんな真似するかよ!!」

「ホントかなー」

私は軽く箱を振って、耳を押し当ててみた。

確かに、カサコソカサコソという何かが動くような音は聞こえて来ないようだ。

「うーん、生き物じゃないみたい……?」

「当たり前だろ! いいから開けろよ!」

円士郎が何だか必死になっているので、
私はできるだけ自分の体から箱を離すように手を目一杯伸ばして、そっと箱のふたをとった。

私の行動を見ていた円士郎が頭を押さえた。


一秒、二秒……


何かが這い出してくる気配もないので、私は恐る恐る小箱を覗き込んで、

「え──?」

驚きに目を見張った。