恋口の切りかた


 【剣】

ひんやりした夜の風が心地よい。

私は庭を望む部屋の障子を開けて、廊下に座って涼んでいた。

虫の声が静かに聞こえている。


欠けた月が東の空に上っていて、行灯の火が消えていても部屋の中はうっすら明るい。

一人でぼんやり庭を眺めていたら、昔のことを思い出した。


蚊帳が吊られた部屋の中を振り返る。

村にいた頃は、大勢の兄弟がいる狭い家で押し合いへし合いしながら蒸し暑い夏の夜を過ごしていた。

こんな風に広々した自分の部屋で、一人で眠る場面など想像したこともなくて──


本当なら一生、そんな日は来ないはずだった。


一人で過ごすことに慣れた武家の屋敷の夜は、

涼しくて
静かで……

でもちょっぴり体の横がスカスカする。


「留玖」

声をかけられて顔を上げると、廊下を円士郎が歩いて来るところだった。

「ちょっといいか」と言って、円士郎が部屋の中を指さしたので、私は何だろうと思いながら立ち上がった。

我が物顔で私の部屋に入っていく円士郎についてとことこ部屋の中に戻って、腰を下ろした円士郎の前に座ったら、


「これ」と、円士郎が何かを差し出した。

「なあに?」

「お前にやるよ」

私は首を傾げて、小さな細長い木の小箱を眺めた。

「開けてみな」

円士郎がニッと笑ってそう言って、私はおっかなびっくり小箱を受け取った。