恋口の切りかた


 【剣】

あれ以来、青文と亜鳥には会えていないけれど……

円士郎から話を聞いて、私はほっとした。


体の具合が悪くなったのは一時的なもので、虹庵先生も過去のことを思い出したせいだろうと言っていたのだけれど、円士郎はやたらと心配してくれて、

当主代理の命令だとか言って、起き上がって部屋から出られるようになっても
あれから半月余りは屋敷の外を出歩かせてもらえなかった。

大げさだなあ、とは思ったものの、
円士郎の気持ちは嬉しくて、どきどきして──

人を好きになると、些細なことでもこんなに幸せな気分になることができるんだなと思って


お見舞いに来てくれた風佳と会って、奈落に突き落とされるような気分を味わった。

どんなに円士郎のことを好きでも、
ずっと一緒にいたいと思っても、

叶わない。

気持ちを認めてしまえばつらいだけだと分かり切っていたのに──


円士郎を好きだと自覚してしまってから、

彼の許嫁の風佳と会って話をすることは、円士郎と一緒にいるとき目を逸らしてきた現実を突きつけられるようで、想像以上に私を苦しめた。


「思ったよりもお元気そうで安心しました」

日陰の縁側に並んで座って庭を眺めながら、風佳はおっとりした口調で言って微笑んだ。

「うん、ありがとう……」

私は膝に目を落として、

綺麗な着物に身を包んだ風佳の足下が目に入って、男のなりをした自分と比べて悲しくなった。


風佳だったらきっと、あのとき円士郎が買ったかんざしも似合うんだろうな……。

そう思って顔を上げて、


綺麗に結った風佳の頭に挿してある櫛(*)に目が留まった。



(*櫛:くし。髪をすくだけではなく、昔は結った頭に挿して使ったりもした)