恋口の切りかた

「十年前に死んだ」

何の感慨もこもらない、投げやりな調子で菊田は言って、


ふ。と──何とも言えない奇妙な表情になって笑った。


「人間の運命とは──まったく何がどうなるかわからんものよな」


死んだ我が子のことを言っているのか、

しかし美男子の面影を残した中年の顔からは悲壮感が感じらず、何を考えているのかさっぱり読めない。


「ふふふ……だから面白い。のう、円士郎殿」

「…………?」


俺は眉をひそめた。

まあ、このオッサンは昔からこんな、何を考えているのかよくわからない男なので、俺はこういう態度には慣れているのだが。

「円士郎殿の母上はお元気か?」

「ええ。菊田殿もたまには屋敷にお立ち寄り下さい」

菊田水右衛門は、菊田家の婿養子だ。

先々代の殿様の弟で──当時の殿様の姫君であるうちの母上は水右衛門の姪ということになる。

つまり俺にとって、このオッサンは大叔父にあたるわけだ。


再び黙り込んで、墓石を見つめ続ける男に別れを告げて、

俺は亜鳥たちのほうへと向かった。




菊田水右衛門は、血の繋がりを持った殿様の家系の男なのだ。




この事実と、


この時、彼が見つめていた小さな墓とが──


これからこの国で起きる大事件に深く関わるとは想像もせず、

俺の中でこの時の出来事はすぐに記憶の底に埋没してしまった。