恋口の切りかた

「墓参りですかな?」

相変わらずクセモノっぽいオッサンは、退廃的な微笑を口の端に貼りつかせて俺の格好を眺めた。

「いえ。俺は知人に会いに……」

言いながら、さして広くもない墓地を見渡す。

遠くの墓石の間に、伊羽家の女中と亜鳥の姿が見えた。

「ああ──最近伊羽家に嫁いだ雨宮の」

菊田は物憂そうに二人の女の姿を見て、

「円士郎殿は、伊羽殿とは不仲のご様子だが……雨宮の令嬢とは仲が宜しかったのかな?」

菊田は春先の長廊下での一件を思い出しているのか、奥の読めない微笑を湛えたままそんなことを聞いてきた。

「ええ、まあ。彼女は蘭学や本草学に通じていましたので、少々学問の話などで交友関係を」

「ほっほう、学問ね」

菊田は鼻を鳴らした。

「若い男と女が学問! いや結構、結構」

女遊びに興じているとの俺の城下での風評を知って、揶揄するかのような調子でもあるが──

「では、此度の伊羽家と雨宮家の婚儀は、円士郎殿もさぞかし腹に据えかねているというところかな」

探るようにこちらに向けられているトロリとした眼は、なかなか油断ならない。

このオッサンにも、伊羽家との繋がりを知られると色々と面倒そうだ。

「そんなところです」

俺は適当に相づちを打って肩をすくめておいた。

「菊田殿は、墓参りで?」

あまり詮索されるとボロが出かねない。

俺は話をはぐらかして、先刻からこのオッサンが黙って見つめていた小さな墓石に視線を落とした。

「ああ……まあ、そのようなものだ」

菊田は歯切れの悪い、のろのろした口調で答えた。

「この墓は……?」

墓石には何やら人の名前が彫ってあるが……

「儂のせがれの墓だ」

俺は少し目を見張って、そう語る男と墓を見比べた。