恋口の切りかた

それから、

「亜鳥、少し席を外してくれるか?」

覆面家老は優しい声音で新妻にそう声をかけて、

「わかった」

家老家の正妻の格好に身を包んだ亜鳥は、微笑んで着物の裾をひるがえし部屋を後にした。


「……予定が狂っちまった」

彼女が去った襖をぼんやりと眺めて、

伊羽青文は──遊水の口調で言って苦笑の声を漏らした。

「そいつは残念だったな」

湯飲みの茶をすすって、俺もニヤリと笑う。

「策謀に長けた御家老様や、人心に通じた操り屋でも、読めねえことがあったってワケだ」

「ふん、全くだな」

覆面の下で鼻を鳴らす気配がして、

「女の行動を読むのは……一番得意だと思ってたんだがねェ」

青文は肩を揺らして笑った。

それを聞いた俺はチッと舌打ちし、

「相変わらず嫌な野郎だ」

こみ上げてきた笑いに、やはり同じように肩を揺らした。



祝言の後、二人の間に何があったのかは、俺には永遠に知る術のない謎だが、


亜鳥は、全てを知って、それでも

彼女の仇であり、
愛する男でもあるこの城代家老を


生かしたのだ──。