恋口の切りかた

「下級武士の副業に──?」

「金魚というものは──今は確かに高級な魚ですし、例えこの先、価格が下落する時が来たとしても、工芸品と同じなのですよ」

櫛やかんざしなどの髪飾りと同じで、
庶民が安く手に入れられるものも、一部の裕福な者に売れる高級なものも作ることができるのだという。

「だから根本的に米とは価値が異なる」

「要するにこれは──政策の一つってことかよ」

俺は驚いて、どうして親父殿が遊水から高級な金魚を買ったのか、その理由をやっと知った。

つまりここで盆栽した金魚を売り歩くことは、この盆栽法確立のための資金集めも兼ねていたわけだ。

「ご理解いただけて何より」と覆面の下からは笑っているような声が聞こえた。


すべては、城代家老の仕事のためだったのか。

「遊水」という存在は、そのためのものだったのか──。


衝撃を受ける俺に、


「私は五年前、貴殿に価値を見出した。
そしてこれまで遊水として貴殿の言動を見てきたが──やはりただの愚か者ではない価値ある人物だと思っています」


この日、伊羽青文はそう語り──


俺もまた、改めて
この男が持つ、俺にはない才というものを目の当たりにして、手を組む価値とやらを確かに見出したのだった。

無論、それには危険がつきまとうことも知ったが──危険ならば既に、親父殿とこいつが組んでやらかした事件の夜から一蓮托生で存在している。


屋敷に戻ってすぐに、青文と一緒になって俺たちを騙し続けてくれた親父殿に噛みついたりしつつ──


それから半年、俺はこの事実を留玖には伏せたままで、
城代家老としての伊羽青文と、町人としての遊水、両方とつき合い続けたわけである。