恋口の切りかた

「鬼之介から聞いた。役目に就くことで出費がかさむからだろ。
武家ってのは体裁や格式を重んじるからな。
戦のない太平の世でも家来を雇わなきゃならねえし、

実際は収入からその給金や、仕事の接待費や諸経費……役目のための出費が出る。

そりゃ、俺たち結城家や伊羽家みてえに裕福な家ならどうとでもなる出費だがよ、宮川家のような下級の武士の家にとっては生活を圧迫する。
特に物価が高い江戸詰めにでもなれば──まあヒサンだよな。

──ってこったろ?」


「半分正解、というところですな」


俺の解答を聞いたこの国の若い執政は、冷ややかな口調でそう返した。

半分正解? 俺は眉間に皺を作った。

「役目のための出費が出ると何故生活が困窮すると?
農民出身のおつるぎ様がおそばにいて、他に調べることはなかったのですかな?」

あきれを含んだような口調で言われ、ややムッとする。

農民……?

俺は家老の口に上った言葉と武士の生活との関係を考えて──

「武家の収入が──米だってことか?」

そこに思い当たった。

「米の値段は変動するが──武家の家禄は米の価値が下がっても一定だ。
出費は米じゃなくて、金で払うことになるから……」

「そういうことです。
収入が米で、体面を重んじる膨大な出費が金子では──武士の経済というものは困窮する」

「それと──城代のお前が金魚の盆栽すんのと、何の関係があるんだ?」

そう尋ねた俺に、彼は屋敷の裏手の池を見せて、


だから下級武士の生活を助けるための副業とする目的で、

金魚の容易な盆栽方法を見つけるため、ここで伊羽家の家禄を使って職人も雇い、育てているのだと言った。