恋口の切りかた

石像と化した俺の前で、金髪の男は軽く肩をすくめた。

「ま、そういうわけですよ」

「──っざけんな!! どういうワケだ!!」

思わず俺は突っ込んで、

「斯様な大声を出されぬよう。意外と鈍いですな、貴殿も」

澄ました顔で言って頭巾を被り直す城代家老を、俺はぱくぱくと金魚の如く口を動かしながら凝視した。

「つまりこれが、伊羽青文が覆面でしか人前に現れない理由ということです」

再び覆面姿となり、しかし声だけは聞き慣れた「遊水」の声で目の前の男は言った。

「は……え……? あ──」

確かに。

異人の血が色濃く現れ、一目で混血とわかる彼の外見では、執政の座に着くことなど不可能だ。


ぼう然となる俺に、続けて彼が語った自らの生い立ちは苛酷極まりないものだった。


話によると──


彼の母親は、商船に乗ってこの異国の地にやって来ていた紅毛人の女で、その容貌を気に入った伊羽家の前当主──つまりあの座敷牢のジジイが妾としてこの屋敷に囲っていたらしい。

ところがその女に彼を孕ませ、生まれてきた子供が紅毛の血を強く引く姿をしていると知れるとすぐに、
武家に置いては持て余すと考えたあのジジイは、母子をともにこの屋敷から追い出したのだそうだ。

幼い青文を連れて彼の母親はこの見知らぬ異国の地を彷徨い、

やがて病みついて、幼い彼を一人残して死んだ。

己らを捨て、母を死なせた。

父親に対する根深い憎しみは、この頃からずっとこの男の胸の内にあったということなのだろう。