恋口の切りかた

何も知らずに彼女に剣術を教えた俺のせいで家族を失い、


俺たちと暮らすようになってからも、

留玖の心が未だにあの雪の晩に囚われたままなのはよく知っている。


いつでも彼女を守るのは俺でありたいのに……


昔を思い出すようなつらい目に遭ったとき、そばにいてやれなかった。

うなされている彼女の枕元で、俺は何もできなかった己を責め続けて──


本当は留玖のそばを片時も離れたくなかったのだが、留玖の言葉で、


「潮時」


昨日、ススキ野であいつが口にした単語が蘇り、

夜に伊羽家の屋敷で執り行われる祝言に、やはり俺は顔を出すことにした。



「あの……エン、ありがと。そばにいてくれて……」


立ち上がった俺に、留玖はそんな言葉をかけてきた。


「心配してくれて、凄く嬉しかったよ」


涙の跡が残る頬で愛しい少女が微笑んで、危うく俺は理性が吹き飛びそうになった。


なんて顔でなんてこと言うんだよ、留玖──!