恋口の切りかた

いつもの遊水の声が、

「他に、何か理由が考えられますかな?」

先刻までの城代家老の口調で、私にそう尋ねた。


他に理由があるはずもなかった。


家老の屋敷から一緒にここまで来たのだ。

この人が家老の格好をしてここに立っている理由が、他にあるワケがない。


でも──でも──

理屈ではそうでも、私の頭は混乱して──



くはははは! と、鎖鎌の男が笑った。


金髪の城代家老は、そんな男を眉根を寄せて見た。


「貴様らは何だ? 答えよ」


ふふん、と男は鼻を鳴らした。


「なあに、単に何か付け入る隙がないかと、ここのところ家老の屋敷を見張っていたのさ。

そうしたら槍を持たず、護衛一人でのこのこ出てきたから殺すのが早いと仕掛けてみたが──隙も隙!

まさか御家老様のこんな弱みを握ることができるとはな」


男は、ぺらぺらと──しかし肝心なことが何もわからない喋り方をして、


「有効利用させてもらうぜ──緋鮒の仙太よォ」


遊水が盗賊時代に用いていたという、その名を口にした。