恋口の切りかた

正直に名乗って、「御家老様に火急の用だ」と言ったら

どうやら私の顔を知っていたらしく、門番は慌てた様子を見せて──


約束もなしに、日が暮れた後に武家の女が
祝言を明日に控えた城代家老の邸宅を一人で訪ねるなんて、

自分がいかに非常識な行動をとっているのかを、私は改めて理解して


でも、引き返すことはできないと思った。


結城家の家名のおかげか、私は叩き返されることもなく、あっさりと中へと入れてもらうことができて、

御家老を前にしてどうするつもりなのかと自問しているうちに、庭へと通された。



「……いかがされた?」


数年ぶりに会った御家老は、
記憶の中のあの夜と何一つ変わらない無気味な覆面姿で、庭に面した廊下から、やや戸惑い気味に私を迎えた。


「このような刻限に、
結城家の御息女が
供も連れず……

いったい何事ですかな、これは?」


特徴的な低い声でそう問われて、私は言葉に詰まった。


どうしよう、どうしよう……

何か言わなくちゃ……!


覆面の下の見えない瞳に見据えられて、

気持ちばかりが焦って嫌な汗が滲んできた。