恋口の切りかた

今月から城下に置かれた盗賊改めは、家老直属の組織という扱いで、
円士郎と同じ大組の組頭である伊羽青文は、円士郎のお役目の上司に当たる。

そんなわけで翌日の祝いの席には当然、江戸にいる当主代理を兼ねて円士郎も出席することになっていた。


この日、怪我が良くなった隼人が、頼みがあると言って夕方に結城家を訪れた。

「あの加那って娘に、武術の稽古をつけてほしい?」

夕方の涼しくなった庭に降りてヒグラシの声を聞きながら、
隼人の頼みを聞いた円士郎は目を丸くした。

加那という人が隼人の婚約者だということは、私も円士郎から聞いて知っていた。

「そんなの、あんたが自分でやればいいじゃねえか。
聞いたぜ? 宇喜多道場の師範代になったんだろ?」

「ええ? 凄い! おめでとうございます」

私が言うと、久しぶりに会った若者は、猫目を細くして照れたように笑い、「ドーモ」と、彼らしい返事をした。


蜃蛟の伝九郎との勝負によって負った怪我が元で、不自由になってしまったという左手は、こうして見ている分には何の不都合もなさそうだった。

しかし日常生活には支障がないものの、剣を振るうことはできないのだそうだ。

もっとも、隼人は片手でも振るうことのできる小太刀の達人だ。
道場の師範代になったのも、特に問題ないだろうという師匠の判断によるものらしい。


「いや、何も本格的に武芸を教えろって言ってんじゃなくて、せめて男から身を守れるようにしてほしいと思って……頼みたいのはおつるぎ様になんだけど」

「私に!?」

隼人の言葉に私は声を上げた。

「女の身で、男を敵にしてどう動けばいいかは、おつるぎ様のほうがわかってるだろ?」

隼人はそう言って、

「あー成る程。確かにな」

と円士郎が納得した。


加那という人とは会ったことがなくて、一度お話をしてみたいと思っていたけれど、

私なんてまだまだ未熟なのに、人にものを教えるなんてできるのかなあ、と不安になって、私は円士郎の顔を見上げて、

「いいんじゃねえか? 留玖に他家の女の友達が増えるのはいいことだと思うし」

円士郎が私のことを考えてくれた内容を口にするのを聞いて、私の胸はふんわりと温かくなった。