恋口の切りかた


 【剣】

兵五郎に捕まった一件を教訓にして練習をしているのだと説明すると、畳の上の私を見下ろして円士郎はにやりとした。

「へェ。縄抜けやるんなら、俺が縛ってやろうか」

……言うと思った。

「捕縄術なら俺も習ったし、できるぜ?」

宗助に縄を解いてもらって、私はほっぺたが火照るのを感じながら円士郎を睨んだ。

「虹庵先生から聞いたよ。ズルイよ、エンだけ一人で教えてもらうなんて」

「ん~、まあ捕り物に当たるには、早縄の類はどうしても必要になるからな」

円士郎は虹庵から一通り捕縄術の指南を受けた後、町奉行所の与力だった神崎帯刀にも縄のかけ方の定法などを教わったのだそうだ。

「武士と町人とで同じように縄をかけても大問題だし、一応俺もそのへんは知っとかねえとマズいだろ」

罪人の縛り方なんてこれまで無縁のことで、私は全く知らなかったのだけれど、

縄のかけ方には捕らえた者の身分や職業、階級によってそれぞれ決まりがあって、これを間違うことは許されないのだそうだ。



明日も練習するなら俺が縛ってやる、いや縛らせろと言ってくる円士郎を必死に断って、


その夜、

布団に入った私は、なかなか寝付けずにボンヤリと天井を見上げていた。


「霊子さん、いる?」

天井を見上げたままそっと声をかけると、

部屋の天袋がすう、と開いて
中から、相変わらず長い髪の毛を振り乱し白い着物に身を包んだ幽霊然とした女が顔を覗かせた。

「はい、ここに。ふふふ……今日はおつるぎ様ったら、宗助兄さまと随分楽しそうなことを……」

「見てたのっ?」

「天井裏から。うふふ」

そう言って含み笑いをするくノ一は、あれから私の部屋の天袋に住み着いてしまっていた。