恋口の切りかた

ごろごろと畳の上を湯飲みは割れずに転がって、中身をまき散らした。


「加那──」

隼人が娘の名を呼んで、

無表情なまま立ち尽くす彼女の両目に、見る見る涙が溢れた。


「どうして……?」


加那は声を震わせて、


「加那が……加那が、不逞の輩に弄ばれた汚れた女だから!?
隼人様の名まで貶め笑い者にする恥知らずな女だからっ!?」


大声で叫んだ。


「ばっ──こいつらの前でお前、何言って……そんなワケねーだろ! 俺はお前の幸せを思って……」


隼人が俺と帯刀に視線を送って戦慄した様子で立ち上がろうとして、

その膝元に、娘は駆け寄ってすがりついた。


「私は隼人様と一緒なら、危険な目に遭ってもいい!
私だって、武家の女よ! 隼人様がお役目でこんな怪我をするなら──それで自分に害が及ぶことなんて恐れないもの!」


言葉を失っている俺と帯刀の前で、加那は隼人にそう言って、


「だから──だからどうか──」


「一緒になってやれよ」


泣き崩れる女を強ばった表情で見下ろす隼人に、俺は言った。


「惚れてんだろ。幸せを思うんなら、あんたがちゃんと幸せにしてやれよ」


俺は傷ついた隼人の左腕を眺めた。


「片腕は無事に残ったんだ。その右腕があれば守れるだろ、あんたなら」