恋口の切りかた

「俺はホラ、まだ家督を継ぐ前の身だし、結城家の屋敷って、武家屋敷の区画でも一番奥にあるだろ?
町で何かあった時に駆けつけるのに、それだと都合が悪いじゃねェか」

「ふん。盗賊改めは町人だけではなく武家にも立ち入って捜査できるんだ。武家屋敷の界隈の奥にあっても問題はなかろう」

帯刀は鼻を鳴らして、

「それに、蜃蛟の伝九郎を斬ったことで、秋山殿は一味から狙われる身となったんだろう。
役宅に使えば常に役人の誰かが駐在することになるのだ。
加那殿のことと言い、秋山家の家族の安全を考えるならば役宅に使うのは妙案と思うがな」

何とか自分の屋敷を役宅にはさせまいと必死の様子だ。

まあ、帯刀が今口にした内容に関しては俺も考えたのだが。

「逆に役宅だから狙われるってこともあるだろ。どっちが安全とは一概に言えねえと思うぜ」

俺はそう言って、


「実はそれで……加那とのことなんだけどよ」


言いづらそうに口を開いたのは隼人だった。


「今回の縁談は、なかったことにするつもりなんだよ、俺」


俺と帯刀は驚いて隼人を見た。


「伝九郎を斬って、俺が盗賊一味に狙われることになったんなら──きっと俺の家族になれば害が及ぶ」


隼人は、先刻俺がめでたいなと告げた時と同じ、困ったような笑い顔を作った。


「加那だけは絶対に巻き込みたくねーし……これ以上あいつを辛い目に遭わせたくねーから」


狐のような彼の双眸には、固い決意の色が秘められていた。


ガチャンと音がした。

俺たちが一斉に音のしたほうに目を向けると、さっきの氷のような美人が、運んできた湯飲みを落としていた。