恋口の切りかた

「無理だ! うちは駄目だ! 絶っっっ対に駄目だ!」

帯刀が精悍な顔に似合わぬ慌てた声で言って、隼人があっけにとられた表情を浮かべた。

「なんでだよ。俺としては帯刀、あんたの屋敷が第一候補なんだが」

「駄目だ! 貴様は美影のことを知らんから──」

「みかげ?」

帯刀の口をついて出た言葉に俺は首を傾げて、

「神崎殿の奥方だよ」

と、隼人がにたつきながら言った。

「そう言えば恐妻家で有名でしたっけねえ、神崎殿は」

「無礼な!」

帯刀は一喝して、

「しかし屋敷を役宅として使うなどと決まれば、美影が何を言うか……」

頭を抱えんばかりの様子でうなった。

「面白そうだな。俺も一度その美影殿に会ってみてえなァ。よし、やっぱり神崎家を役宅として使うことにするか」

「何でそうなる!」

帯刀は必死の形相で怒鳴って、

「江戸の火盗に倣うのであれば、長官である貴様の結城家を役宅として使うのが筋だろうが!」

俺に向かってそう言った。

「うへえ。先法御三家の屋敷を役宅に使わせろとはまた、怖い者知らずな発言ですよねえ」

隼人がボソリとこぼして、帯刀のこめかみがひくついた。

「ん~まあ、筋から言えばそうなんだけどよ」

俺は苦笑いする。