恋口の切りかた

満身創痍ではあるが、それでも隼人は

彼女が受けた苦しみと、貶められた誇りに対して一矢報いたのか。


「このことは、彼女には……?」

「言うわけねーだろ」

隼人は顔を歪めてうつむいた。

「自分の報復のために、俺の左腕が一生使い物にならなくなったなんて知ったら、加那が苦しむ」

「……そうだな」

「でも、俺は後悔してないぜ」

隼人は顔を上げて笑った。

「俺の腕一つで、惚れた女の無念を晴らせたんなら本望だ」

それは──本心なのだろう。

「だから加那には、役目で凄腕の盗賊と斬り合って怪我をしたと、ただそう告げてある。あんたらからも絶対に何も言うなよ」

晴れ晴れとした笑顔でそう言う隼人からは、本当に何一つ後悔していないことが窺えた。

「おう、わかったぜ」

俺は口の端を吊り上げて頷いて、帯刀が何やら神妙な面持ちで首を縦に振った。

「で? あんたら、今日は何の用だよ? こっちは痛む体で起きて相手してるんだ。早いとこ話をしてくれ」

隼人がうんざりした様子で言って、俺はここに来た本題を思い出した。

「そうだった、そうだった。いや、盗賊改め方を置くに当たっての役所なんだがよ」

俺は伊羽に言われたことを思い浮かべる。

「上は新たに城下に作る気はねえようで、江戸の火盗と同じく、盗賊改め方の人間の屋敷を役宅として使えっつってるんだが──」

俺の話から嫌な予感でもしたか、隼人と帯刀が顔をひきつらせて、

「あんたらの屋敷のどっちかを、役宅として使えねえかな」

俺は二人にそう話を持ちかけた。