恋口の切りかた


 【円】

「どうして俺が貴様の部下にならねばならんのだ!?」

秋山家の屋敷の縁側で、神崎帯刀は深い深い皺を眉間に刻んで不機嫌に吐き捨て、出された茶をすすった。

「いいじゃねェかよ。どうせあんた、奉行所内じゃあ煙たがられてたんだし、役方から番方に移るってだけで、今まで通り与力の役目なんだしよ」

俺が気楽に言って肩を叩くと、びきい、と音でも立てそうな勢いで帯刀のこめかみに血管が浮かぶ。

「それにあんた、それだけの腕があるんだ。是非とも盗賊改め方に欲しいと思ってな」

俺は手にしていた木刀を置きながらそう言って、帯刀の横に腰を下ろした。

今はちょうど秋山家の庭で、帯刀と軽く手合わせをしていたところだった。

「いやあ、これで俺とは同僚ってことですねえ。ドーゾ仲良くしてやって下さいよ、神崎『殿』」

座敷に座ったまま俺たちの試合を眺めていた隼人も、肩を叩く変わりに軽口を叩いて、

再び帯刀の額に盛大な青筋が浮かび上がった。


そう、俺が伊羽に頼み込んで今月から城下に置かせた盗賊改め方。

そこの与力として自分の片腕にするべく、俺は町奉行所の与力であった神崎帯刀を引き抜いたのだった。

もともと盗賊改めを置く構想のあった俺は、剣の腕の立つ隼人については初めからこの番方の与力にするつもりで、俺の下役にした時点で大組の士分に引き上げておいたのだ。


もっとも、蜃蛟の伝九郎との立ち合いで重傷を負った隼人の左腕には、七月に入った今も痛々しい布が巻かれていて、

まだ表を出歩ける状態ですらなく、当然すぐに役目に就けるような容態ではなかったが。


今も、寝間着の上から夏物の薄い羽織を肩にかけた格好で、相談があって秋山家を訪れた帯刀と俺の相手をしている。

「貴様、もう起き上がっても良いのか? 無理はせずに寝ていたらどうだ?」

帯刀は顔をしかめながら、隼人を気遣う言葉をかけて、

どうぞ、と縁側の俺にも茶を出してくれた女が、心配そうに隼人を振り返った。