恋口の切りかた

縄抜けの何がそんなに危険なのか、未熟な私にはよくわからなかったけれど、

確かに忍者の宗助なら絶対に修めているに違いなかったし、安心して教えてもらえると思って──


虹庵のもとを後にした帰り道。


すぐ近くにある女絵師の長屋が目に入って、私は意を決してその戸を叩いた。

鳥英とは、円士郎と抱き合っている場面に遭遇して、私が長屋を飛び出してそれきりになってしまっていて、
考えてみると、私の態度はあまりに失礼だった気がした。

ちゃんと謝って、鳥英と話をしなければと思って、

「鳥英さん、私です。留玖です。いらっしゃいますか?」

緊張しながら中に向かって声をかけたら、ガラリと長屋の戸が開いて、


中から顔を出した人物に私は目を丸くした。


「遊水さん……?」


戸口に現れたのは、
棒手振の格好ではなく、普段着の優美な着流し姿に身を包んだ金髪の若者だった。


「ご、ごめんなさい」

私は赤くなった。

遊水が鳥英のもとを頻繁に訪れていたのは知っていたし、この二人がどういう関係なのかについては、私にもわかってはいた。

「お邪魔しました」

慌ててきびすを返そうとすると、「いいや」と言って戸を大きく開け放ち、遊水は長屋の中に引っ込んだ。

「彼女ならいません」

「え?」

「消えちまいやしたよ」

そう言う遊水の後から長屋に入って、私はぼう然とした。


たくさんの書物やら、絵の道具やら、怪しげな生き物の死骸やらで埋め尽くされていた長屋の中からは、それらは綺麗サッパリなくなっていて、

遊水は土間から板の間に腰掛けたまま、がらんとした長屋の中をぼんやり見回していた。