恋口の切りかた

さすがに忍の宗助が部屋に立ち入れば、霊子も見つかる可能性があるということで、
父上は、宗助にはあの部屋に近づくなと言いつけていたらしい。

「それ、お前……宗助に隠しとく必要ねーだろ。修行っつうか、完全にあの親父殿に面白がられてただけじゃねーか」

円士郎は憐れみの目で霊子を見て嘆息した。


「成る程。部屋の襖に『封』と書かれたフダを貼ったのはお前だな、霊子」

と宗助は言った。

「あれが、俺たちの里の者が人の出入りを調べるのに使う薄紙によく似ていた理由がやっとわかった」

彼らは、薄い小さな紙を戸口や襖のつなぎ目に貼り付けて、それがちぎれているかどうかでその出入り口が使われたかどうかを確かめるのだという。

「うう……拙者が部屋を離れている間に中に入った者がいないか知るため、貼っておいたのでござる」

「って、あの天井のフダは何だったんだ!? 『去ね』だの『入った者は呪われろ』だの……あれもてめえの仕業だろ」

円士郎が言うと、よよよ……と霊子はまた声を上げて泣き、

「この三年間の修行の間中、拙者は……いつ誰かに見つかるだろうか、いつ部屋に誰か入って来るだろうかと不安で……不安で……。
でも毎日あのフダを書いて天井に貼ると、少しだけ気が休まるように思えて……」

そう言って、涙に濡れた瞳で幸せそうに微笑んだ。

「ふふふ……いつの間にか日々の日課に」

「どんだけ病んだ日々の日課だ!」

円士郎が突っ込んだ。

私は心配になって宗助を見た。

「こ、この人、大丈夫なのかな? 変な修行してたせいで、精神的に病んじゃったんじゃないのかな」

「いえ、大丈夫です」と宗助は淡々と答えた。

「霊子は昔からこういう病んだ性格でしたので」

「そっ……そうなんだ」